漆黒の宇宙のようなスープ、富山にあり
富山ブラックという言葉を聞いたことがあるだろうか。
富山に、ブラック。一体何のこと?とお思いだろう。
そんな富山ブラックは、ここから始まった。
富山を中心に展開するラーメンチェーン店「西町大喜」。
その本店は、富山市にある西町本店だ。
富山駅から路面電車に乗り、富山の中心部である西町駅で降りる。
市立図書館も入るキラリの脇にある路地に入ると、小さくてレトロなお店がある。
ここが西町大喜 西町本店だ。
昭和のまま時が止まったかのような佇まいにうっとりする。
「元祖 富山ブラック」とと書かれたのぼりがある。
まさにここが、富山ブラックの聖地だ。
美味・求真・中華・そば と書かれた順に並べられた笠。
それでは入店してみよう。
濃い味付けには歴史があった
西町大喜が創業したのは1947年、戦後すぐのこと。
創業者である高橋青幹氏(=高橋是安氏)は、屋台にてラーメン店を開業。
肉体労働をする人々のために、ご飯のおかずとして食べられるようなラーメンを考案した。
それは、ボリュームのあるチャーシューと、濃い味のスープだった。
そのラーメンは話題となり、富山祭りの際には長蛇の行列になるほどだったという。
やがて現在の西町大喜の場所に「大喜」をオープン。
一切の暖簾分けをせず、西町の1店舗だけで最盛期には1ヶ月に1万杯ものオーダーがあったという。
そんな大喜だが、2000年に有限会社プライムワンに大喜の運営権を譲渡し、経営母体が変わる。
その時を境に「西町大喜」となり、富山県内に複数店舗を運営するようになる。
2021年7月現在、富山県内に6店舗で運営されている。
入り口に掲げられた、西町大喜の解説パネル。
混ぜること、よく噛んで食べることなどが記されている。
入り口には食券機が設置されているので、食べたいメニューを購入する。
今回は「中華そば」をオーダー。850円だ。
店内は細長く、壁に向かってカウンター席があるのみのシンプルな構成。
なんともレトロな雰囲気だ。
壁にはたくさんの浮世絵などが飾られている。
大きなディスプレイに飾られているのは、東海道五十三次の絵巻物だ。
相当な値打ちがありそう。
達筆な字で「大喜」と書かれている書。
サイン色紙の中にはみうらじゅん・いとうせいこう両先生のものもあった。
「富山で休もう」という観光ポスターの、大喜がメインコンテンツとなったバージョンが貼られている。
こだわり大喜のチャーシュー麺と書かれた紙。
食べ方などが書かれている。
同じ内容のものが小形サイズになって配布もされている。
常に携帯し、最高のパフォーマンスが発揮できるように頭に入れておこう。
掲示されたメニューボード。とてもシンプルだ。
これぞ富山ブラック!塩っぱさの中にある芳醇な旨さ
そして運ばれてきた西町大喜の「中華そば」!
く、黒い!!
この漆黒のスープ…
これぞ富山ブラックの元祖のスープだ。
チャーシュー、メンマ、ネギがタワーのようにトッピングされ、コショウでフィニッシュされたルックスがクールだ。
テーブルの上に用意されているのはコショウのみ。
ちなみにレンゲも用意されておらず、全て箸だけで食べるのが大喜のスタイルだ。
食べ方はマニュアル通りに、まずしっかりと混ぜる。
具材や麺をスープと十分に絡ませて、よく噛んで食べる。
最初の一口目、二口目は「塩っぱい…!」
その味の濃さにたじろぐ。これ、最後まで食べることができるかなあ?
しかし三口目、四口目と食べ進めて行くうちに、その美味さが分かってくる。
チャーシューは厚みがあり、噛むと豚肉の美味さがじんわりと広がる。
麺はコシがあり、よく噛む必要がある。
メンマも大きいし、ネギだって存在感が抜群だ。
おかずとして成り立つラーメン、食べ続けるうちにその意味が分かる。
そして漆黒のスープに口をつける。
やっぱり塩っぱい。
でも… この塩っぱさの先にあるのは、懐の深い美味しさだ。
そう簡単に美味しさにたどり着けない。
しかし、一度たどり着いたら病みつきになってしまう。
それが大喜の味の魅力だ。
完食し、店を出る。
富山ブラック発祥の地、西町大喜 西町本店。
全国のご当地ラーメンの中でも、とりわけ個性的なスープだった。
そして厚いチャーシュー、大きなメンマ、コシのある麺。
これらがあのスープに無くてはならないものだと、完食することで理解できる。
そんな奥の深さを感じさせてくれる西町大喜 西町本店。
富山ブラックというスタイルは、数多くのラーメン屋に受け継がれ、インスタント麺にもなっているが、大喜の味を食べたければ富山に行くしかない。
富山が誇る味と歴史、ここにありと感じさせてくれた西町本店だった。