それは、日本の「インドカリー」の歴史
新宿駅東口を出てすぐの所にある、「新宿中村屋」の本店ビル。
それは、100年以上の歴史を刻み続ける老舗だ。
新宿中村屋が歴史を刻むこのビルには、新宿中村屋の味を楽しめる様々なタイプのレストランが入居している。
8階の「カジュアルダイニング Granna 新宿中村屋」、7階の「タイ&アジアンバル CAFE RAMBUTAN」と「台北餃子 次次 チィチィ」、6階の「オリエンタルダイニング KICHIRI MOLLIS」、地下1階の「スイーツ&デリカ Bonna」、そして地下2階の「直営レストラン&カフェ Manna 新宿中村屋」だ。
伝統のインドカリーを食べたくなったら、地下2階の「Manna」へ。
それでは入店してみよう。
新宿駅前で歴史を刻み続ける
新宿中村屋が創業したのは1901年。創業者である相馬愛蔵・黒光夫妻が本郷の東京帝国大学(東京大学)の前にあった「中村屋パン」を買い取った所から始まる。中村屋パンでは、当時新しかった「クリームパン」「クリームワッフル」を発売し、人気を得たという。
1909年、新宿の支店を現在の新宿駅前に移転させ、ここを本店とし始める。
1915年には、インド独立運動の志士として知られるラス・ビハリ・ボース氏が、イギリスからの追求から逃れるため、中村屋のアトリエに匿われる。そこからボース氏と相馬家族との付き合いが始まり、1927年には中村屋の喫茶部にて純印度式カリーの販売が開始される。
ボース氏と相馬夫妻が協力して作った純印度式カリーは、小麦粉から作るヨーロッパ式のカレーと違い、強烈なスパイスの香りがするもので、最初はなかなか理解されなかったが、その後は80銭という高価な物にも関わらず、飛ぶように売れたという。
それが、日本で最初の「インドカリー」となった。
1945年の大戦で、新宿一帯は焼け野原になったが、1948年には闇市が建ち並ぶ新宿にて中村屋も復興。パンとインドカリーの提供というスタイルは変えないまま、闇市の裏側に家屋を再建させた。
1958年には地上6階、地下2階のビルに建て変わる。
高度経済成長を経て大きく様変わりした新宿で、2014年には現在のビルへと建て変わった。
2022年5月現在、系列店を全て含めると、首都圏を中心に27店舗で運営されている。
多くのお客さんで賑わう「Manna」の店内。
店内の至る所に、往時の写真が掲げられている。
本郷の東京大学前でパン屋として創業した頃の絵。
創業者である相馬夫妻の肖像。
1909年に現在の場所に移転した時の写真。
関東大震災でも被害を免れ、「地震パン」「地震饅頭」「奉仕食パン」を被災民に特価で提供したという。
繁栄する昭和の新宿の様子。当時は歩行者天国だった。
こちらが新宿中村屋 Mannaのグランドメニュー。
1ページ目は、もちろん伝統のインドカリーから。
Mannaはインドカリー専門店と言ってよいだろう。
「恋と革命の味」と評された、「中村屋純印度式カリー」。
革命とはもちろんインドの革命家であり、相馬夫妻の娘と結婚し、中村屋純印度式カリーを開発したラス・ビハリ・ボース氏のことだ。
今回は、「中村屋純印度式カリー」を単品でオーダー!
新宿中村屋は、四川麻婆豆腐も提供している。
新宿中村屋の料理人が四川省で学んで味作りをしたオリジナルの麻婆豆腐とのことだ。
香り豊かで深いコクのある、絶品インドカリー
しばらくして運ばれてきた、「中村屋純印度式カリー」!
風格の漂うルックスが、食べる前からたまらない。
ゴロッと大きなチキンが入ったルー。
しかも骨付きだ。
こちらがライス。
ちなみに、新宿中村屋の8階にある「Granna」で提供されるライスは白目米。
当時、インディカ米ではなく、日本人に合うようにと白目米が選択された。
しかし、白目米は戦時中に米穀統制によって栽培禁止になってしまう。
その後、白目米を復刻する動きが行われ、ライスとして提供されるようになったのは1998年からだという。
付け合わせは、バラエティに富んでいる。
中村屋のカリーライスにあうように独自の配合で甘酢液に漬けこんでます。カリカリの食感は絶妙。カリーの辛みを和らげ、食欲を促します。
アグレッツィ
短きゅうり種を独自のマリネ液で漬けた中村屋の名物、通称「ロシア漬け」。爽やかな酸味と歯ごたえはカリーの辛さを和らげ後味もさっぱり。
オニオンチャツネ
玉葱をスライスして塩、生姜、チリパウダー、リンゴ酢に混ぜ 合わせました。唐辛子の辛さの中にも、ほんのり玉葱の甘さが特徴のチャツネ、辛口がお好みの方は是非お試しください。
マンゴーチャツネ
マンゴーの果肉をたっぷり使い、数種類のスパイスに漬け込み、更にメンマやアグレッツィの食感もプラス。中村屋の歴史を誇る独自のチャツネ。
レモンチャツネ
レモンを丸ごと使い、赤玉葱と数十種類のスパイスを混ぜ合わせました。レモンの爽快な酸味とスパイスの風味が醸し出した癖になる美味しさです。
粉チーズ
脂肪分が低めのエダムチーズを使用しています。お好みでカリーソースにかけてお召し上がりください。辛さを和らげてマイルドな味わいになります。
ライスにルーをドロップし、食べてみる。
ドロっとしたルーからは、スパイスの香りと味がダイレクトに感じられる。
インドカリーのイメージってシャバシャバだったりするけど、中村屋のものはドロっとしている。
そこに大きな鶏肉が入る。しかも骨付きなので、骨から身を剥がす作業が必要だ。
しかし、柔らかい鶏肉の美味さがインドカリーの美味さに直結している。
味変ツールとして、付け合わせのものを色々と試す。
酸味のあるアグレッツィと、スパイシーなオニオンチャツネが私の好みであった。
新宿の地で100年以上の歴史を刻み、日本初のインドカリーを今も提供し続ける、新宿中村屋。
その味は厚く信頼されており、満員のお客さんで賑わっていた。
関東大震災も第2次世界大戦もくぐり抜け、高度経済成長を超えて難しい時代になった今も、その味は往時の物と変わらない。
新宿中村屋は、これからもボース氏のインドカリーで、私達を楽しませてくれるに違いない。