- 1 飲食店のメニュー表は、饒舌に語りかけてくる
- 2 メニュー表のインターフェース3種
- 3 飾らない!テキストロール式のメニューたち
- 4 ビジュアルを並べてみた!アルバム式のメニューたち
- 5 流れに沿って見ておくれ!ウォーターフロー式のメニューたち
- 5.1 牛めしチェーンの「松屋」
- 5.2 持ち帰り弁当界の雄「オリジン弁当」
- 5.3 日本のファミレススタンダード「ココス」
- 5.4 イタリアンは前菜から始まる?「ジョリーパスタ」
- 5.5 京都のラーメン店「ラーメン横綱」
- 5.6 名古屋のローカルラーメンといえば「スガキヤ」
- 5.7 札幌の味噌ラーメンチェーンといえば「味の時計台」
- 5.8 名古屋みそカツの有名といえばここ「矢場とん」
- 5.9 ちょっと複雑なメニュー構成「ケンタッキーフライドチキン」
- 5.10 牛丼ひとすじ!「吉野家」
- 5.11 メニューの複雑さはここが最高「CoCo壱番屋」
- 5.12 シンプルイズベスト!「福しん」
- 5.13 沖縄ローカルのハンバーガーチェーン「A&W」
飲食店のメニュー表は、饒舌に語りかけてくる
チェーン店に限らず、飲食店ならたいがいの店に用意されているのは「メニュー表」だ。
お客さんが入店して、「さあ、何を食べようか?」と思って最初に見るのがメニュー表である。
つまりメニューとはインターフェースであり、一番最初にお客さんとお店がコミュニケーションする手段である。
そんな、レストラン to クラウドなインターフェスである所のメニュー表では、その限られた紙面の中で、お店の様々な思惑やプライドが見え隠れする。
「このお店の『売り』をすぐに分かってもらいたいし、楽しんでもらいたい」
「どんなラインナップがあるか、全てを分かりやすく伝えたい」
「なるべくトッピングをたくさん載せたような、高単価なものを注文してもらいたい」
「単品だけでなく、ドリンク、ライスもセットで注文してもらいたい」
例え店主が無言でも、メニュー表は店主以上に語りかけてくる。
この店は何を売りにしているのか。
そして今、何を食べれば良いのか。
メニュー表と対峙し、あれも食べたいけどこれも食べたい…などと悩んでいる時間は至福であり、それはメニュー表の作りが人を悩ませるほど良く出来ているとも言えるのではないか。
では、飲食チェーン店のメニュー表はどのように語りかけてくるのだろうか?
いくつかのパターンを考えてみた。
メニュー表のインターフェース3種
飲食店のメニュー表は大きく3つの種類がある。
だいたいこの3つの形式に当てはまると言える。
それぞれの解説をしてよう。
テキストロール式
映画のラストで、スタッフやキャストの文字が流れていく「スタッフロール」のように、食べ物が文字で羅列された形式だ。
メニューとしては最も古典的で、最も簡単なものとなる。メリットとしては、とにかくシンプルなことだろう。デザイン要素が無いので陳腐にならない。
デメリットとしては、お店の「推し」が伝わりにくい。また、そのメニューを知らない人にビジュアルが伝わらない。
という感じだろうか。
アルバム式
パソコンやスマホの画像フォルダに最も近い形式。
ひたすら画像がアイコンのように並んだものだ。メリットとしては、全てのメニューのビジュアルが分かるという所だろう。寿司などメニューの種類が多い飲食店だと、ビジュアルにした方が伝わるかも知れない。
デメリットとしては、情報量が多くてちょっと迷う、メニュー表の面積を食う、という所だろうか。
ウォーターフロー式
この順番で左上から右下まで視点を動かして見てくだせぇ、その中で色んなトッピングだったり味付けだったりがあることを教えますよ!という、お客さんがどういったフローで見れば良いか、水が流れるがごとくフロー化されたもの。
(注:さっきから全ての名前は僕が勝手に付けて遊んでるだけです)
メリットとしては、お店の思惑が最も伝わりやすい。食べて欲しいものが伝わりやすい。
デメリットとしては、情報の割り切りをしないと印刷面積が必要なためページ数が増えるのと、制作にはグラフィック力が問われる。
所だろうか。
それぞれのメリットやデメリットがありそうだ。
ここで、マーカーの説明を。
この色の丸は、「お店の定番メニュー」と思われるもの。
この色の丸は、「これ食べてみて!とアピールしてるメニュー」と思われるもの。
この線は、お客さんの視点の流れ。
メニュー表は店によって千差万別。
シンプルなテキストロール形式のものから、めちゃくちゃデザインにこだわったウォーターフロー式のものまで、様々だ。
しかし、それらは優劣ではないところが面白い。
シンプルなテキストメニューだから味がある店もあるし、グラフィカルだから良い店もある。
そういう視点で、実際の飲食店にあるメニューから見ていきたい。
飾らない!テキストロール式のメニューたち
うちはこれで十分。
そんなこだわりすら感じ、貫禄さえ感じさせるのがこのテキストロール式メニューだ。
東京で、サッと安く食べられるラーメン店「博多天神」
「うちはラーメン屋!以上!」と言いたげなほどシンプルなメニュー。
グラフィカルにする必要など全く無い。この煤けた汚れすら味わいだ。
永遠の定番「ラーメン」から始まり、いろんなバリエーションがあると教えてくれる。
喜多方にある喜多方ラーメンの「まこと食堂」
畳の上で食べる素朴な味のラーメンだ。
そこには、このようなスタイルのメニューが似合う。
チェーン店ではありません。
一番右に書かれた「中華そば」が、定番の喜多方ラーメン。
そこから左に視点を移動させると、いろんなバリエーションがあるよと教えてくれる感じ。
シンプルそのものである。
宇都宮の餃子専門店「みんみん」
「うちは餃子しかありません」という、究極の割り切りすら感じさせる、美しいメニュー。
これ以上の完璧さが、どこにあろうか。
横浜の立ち食いそば屋「相州そば」
立ち食いそば店のメニューは、どの店もそんなに変わらない。
たぬき=天かす、月見=玉子、という基本的な所さえ知ってしまえば、テキストロールで十分だ。
丸の内OL御用達、NY直輸入のカフェ「DEAN & DELUCA」
逆に、デザインに徹底的にこだわったカフェというのは、変にグラフィカルにしない。
どんなメニューでも、ここに来るお客さんは知っているはずだ…とまでは行かないかも知れないが、分かりやす過ぎるものは格好良く無い、というバランスを感じる。
毛沢東もビックリ?野毛の「三陽」
中にはメニュー名でゴリ押しする特殊な店もあります。これは、あえて事前にビジュアルを見ない方が楽しめるパターンですね。チェーン店ではありません。
ビジュアルを並べてみた!アルバム式のメニューたち
文字だけじゃ分かってもらえない!!
そんな声が聞こえてきそうな「アルバム式」。
回転寿司に多いです。あとはピザ、パスタ、お好み焼きにも多いかも。
道東の魚を全部楽しんでくれ!回転寿司「まつりや」
ドカーーン!どやぁぁぁ!
誰もがひれ伏す情報量で迫ってくる。
どこから見れば良いか、何が推しなのか、そんなことより、あれもこれも全部美味いのだから、何でも食ってくれ!
というメニューだ。
これほど画像アルバムライク、サムネイル化されたメニューは他に無い。
北海道の寿司ならウチにまかせて!「トリトン」
東京でも大人気の「トリトン」さん。上の「まつりや」に比べると、だいぶ奥ゆかしいメニューだけど、全部グラフィカルではなく、全部テキストでもない。良い塩梅。
そう、何から何まで全部食べるのは無理である。どうせマグロとサーモンが人気で、その他のちょっとマイナーな寿司を頼むのは、それを知ってる人でしょ?と言わんばかりの。
それにしても、見やすい!
お好み焼きに徳川将軍の名前を付けてみた!「徳川」
広島のお好み焼きチェーン「徳川」さんのメニュー。
お好み焼きのメニューって名付けるのが難しいですよね。豚とイカと天かすを入れたら「豚イカ天かす」って名付けるの、そのまますぎない?
そこで徳川将軍の名前を付けたところ、テキストだけだと全く分からないものになるので、絵が並ぶと分かりやすい!
禁煙にして大成功!「串カツ田中」
すっかりおなじみ「串カツ田中」。カツの価格も全て100円に統一され、リーズナブルで分かりやすい店に変化を遂げた。
そんなメニューもグラフィカル。
大阪発祥の串カツになじみのない地域の人も、どんなカツが来るかビジュアルで分かる。
流れに沿って見ておくれ!ウォーターフロー式のメニューたち
縦書きだったら右上から左下へ。
それは、Webページでも、雑誌でも、そういう物だという。
横書きだと、左上が「誰もが絶対見る特等席」であります。
ここに一番見せたいものを置き、そこからの流れを作っていくことで、全貌を見てもらうというのがこのメニューの方式。
さて、左上には一体なにが?
牛めしチェーンの「松屋」
牛めしをパワーアップさせて「プレミアム牛めし」を新たなスタンダードにした松屋さんは、左上にプレミアム牛めしを持ってきており、これがイチオシだとすぐに分かる。
カレーや定食も検討しつつ、それらを見終わったら右側のサイドメニューに行く流れだ。
持ち帰り弁当界の雄「オリジン弁当」
メニュー数の多い弁当を、1枚の紙の中で、全てをグラフィカルにして、推しと定番を伝える。
そんな難しいことをやっているのがオリジン弁当。
弁当の定番と言えば「幕の内」だけど、敢えて2番目にして、最上段には大きく「牛すき焼き」を持ってくる。
オリジン弁当に対して「牛すき焼き」のイメージはあまり無いと思うが、一番目立つ所に単価の高い、期間限定のものを置くことで、お客さんに新鮮みを与え、気になったら注文してもらうスタイルだ。
日本のファミレススタンダード「ココス」
ココスのグランドメニューの1ページ・2ページ目。最初のページは、そのレストランが最も推しているものか、定番ものが掲載されることが多い。(イタリアンレストラン以外)
ココスが押しているのは「旨々バーグ」というオリジナルのハンバーグで、そのビジュアルが大きく飛び込んでくる。
ここに少しカラクリがあって、大きく書かれた「690円」とは、実はハンバーグ単品の値段なのだ。一瞬安いと思わせるが、これが単品だと知った時、人はセットメニューを探す。するとすぐ左に書いてある。Aセットでは1090円だ。
ハンバーグだけだと物足りないな、と思う人向けにバリエーションを用意している。
何はともあれ中心はハンバーグで、そこからぐるりと視点を動かすとセットとか他のものも食べたくなるような、見事なフローだ。
イタリアンは前菜から始まる?「ジョリーパスタ」
先ほど「イタリアンレストラン以外」と書いたが、ジョリーパスタのメニューはこうだ。
1ページ目にあるのは「前菜」。
つまり、いきなりパスタやピザを推すのではなく、イタリアンを食べに来ているのだから、イタリアンらしい順序で食べると良いですよ、という流れの提案である。
これはサイゼリヤもそうなっているのでチェックしてみて欲しい。いきなり肉から始まったりしていないはずだ。
京都のラーメン店「ラーメン横綱」
左上にあるのが定番の「ラーメン」。まずは定番のラーメンを食べてみて!ということだ。
そしてラーメンのバリエーションを見た後、サイドメニューでまた定番の「ピリ辛餃子」を通過するという流れ。
これもよく考えられたメニュー表だろう。
名古屋のローカルラーメンといえば「スガキヤ」
スガキヤはシンプルなメニュー構成ながら、トリッキーなメニュー表となっている。
スガキヤの定番は「ラーメン」なのだが、それが単品だと320円とあまりに安いためか、より単価の高いセットメニューが目立つような作りになっている。
しかしよく見ると、セットメニューの中にラーメン単品でも購入できることが分かるように、単品の値段だけが書かれている。
定番を単品で、よりも付加価値を、と考えられたメニュー表だ。
札幌の味噌ラーメンチェーンといえば「味の時計台」
味の時計台のメニューもスガキヤと同様、定番を単品で頼むより、高付加価値のものを頼んで欲しい、という表現がなされている。
左上は定番のみそラーメンから始まるが、左下にある「ネギチャーシューメン」1100円が最も目立つレイアウトとなっており、これがもっとも推されていることが伝わってくる。
味噌ラーメンを食べようかな…と思ってきたお客さんに対し、「えっ、ネギチャーシューもイケるかも!」と思わせる力のあるメニュー表だと言えよう。
名古屋みそカツの有名といえばここ「矢場とん」
みそカツ専門店「矢場とん」に、味噌カツ以外のものを食べに行く人はあまりいない。
だからメニューは超シンプルに、味噌カツをドーーーンと推す!ドーーーーーンと!
大きなビジュアルの見開き両面で、「鉄板とんかつ」「わらじとんかつ」を推す。
でも実はこれ二つとも付加価値商品で、味噌カツを食べたいのなら下の段にある「ロースとんかつ」になる!
上手い!
ちょっと複雑なメニュー構成「ケンタッキーフライドチキン」
チキンを中心としたファストフード「ケンタッキーフライドチキン」は、若干迷いそうなフロー構成をしている。
どこからスタートすれば良いのか、スタート地点を迷ってしまうのだ。
それは、バスケットに入ったチキンのようなメニューがあるために「ファミリー向け」「個人向け」とでフローを分けているために起こる。
その上、「いいとこどりパック」などの付加価値商品が目立つところにあるため、これはファミリー向けなの?個人向けなの?という迷いを生じさせている。
牛丼ひとすじ!「吉野家」
牛丼にかける想いとは裏腹に、メニュー表の構成には若干の迷いが見える。
永遠の定番であり、その味は吉野家にしか作れない「牛丼」。サイズの並は一つの経済指標にもなっており、値上げすると大騒ぎされる。以前、吉野家はそれで客離れが起こったことにトラウマを持っており、並の値段はできるだけ上げないようにしてきた。
しかし、並ばかり食べられると単価が低すぎて、会社としてやっていけない。だから高付加価値のものを食べて欲しいけど、それは何なんだ!?という葛藤が、メニュー表から見て取れる。
そのため、分かりやすい場所に「プレミアム牛めし」をドーンと配置して腹を括った松屋に比べると、見づらく複雑なメニュー表となっている。
牛丼の「並」の字だけが赤字で書かれているが、フォントサイズや写真サイズが小さいために目立たない。
今の吉野家にとって、牛丼の並は、食べてほしいけど、あまり食べてほしくないのかもしれない。
メニューの複雑さはここが最高「CoCo壱番屋」
辛さやトッピングを自由にできる「CoCo壱番屋」。それだけに、メニュー表の情報がやたら多い。
それを無理せずにページを増やし、そして特殊な断裁をすることでタックインデックスのようなものを作り、少しでも見やすいものにしようとかなり高度なメニュー表が作られている。
メニュー表を手に取ってみると、一体何が何だかワケが分からないほどの情報の嵐だが、不思議と理解できるのは凄い。
このメニュー表は芸術的!
シンプルイズベスト!「福しん」
東京ローカルの中華料理店「福しん」は、地域に愛される店作りを目指している。そのため、適度な価格で、緩く、やさしい空間が特徴だ。
メニューにもその雰囲気が反映されており、「トッピング山盛りのやつを、食えぇ!」みたいな雰囲気は微塵も無い。
見開きだけのメニュー表は、左上の定番の「手もみラーメン」から始まり、グラフィカルで分かりやすい中、右下の餃子までたどり着く。一見アルバム型に見えてウォーターフロー型。シンプルながらもちゃんとフローが意識されている、実に美しいメニューだ。
沖縄ローカルのハンバーガーチェーン「A&W」
さてたくさん紹介したけど、個人的メニュー表ベストはここ! 沖縄ローカルのハンバーガーチェーン、エンダーこと「A&W」だ。
見開きだけのシンプルな中に、キッチリと整理されたメニューが並び、それらを綺麗にフローが走り、一切迷わせない。
まず、「売りはハンバーガーですよ」というのが簡単に伝わる。そう、左上にあり、大きいから。
そこでポイントは、一番高付加価値なものに「The A&Wバーガー」というネーミングがされている所。
つまり、定番イコール高付加価値ですよということを、最も分かりやすい場所で行っているのである。
これをされると、「The A&Wバーガー」以外のハンバーガーは全て脇役に見えてしまう。
そして観光客も多い沖縄で、せっかく行ったA&Wなのだから、そこの代表を食べてやろう、って思う。
そこからのフローは、まず色んなハンバーガーを一通り見た後、コンボセットを選ぶ。そこには最初からルートビアの写真があり、ルートビアを提案してくる。
そのまま右に行けば他のドリンクを選べる。さらに何か食べたければ右上に行きサイドメニューを選ぶという流れだ。
いや~分かりやすい! 素晴らしいメニュー表だと思います。
というわけで以上、メニュー表いろいろ考察でした。